外国人雇用シリーズ:第1回 雇うとき/第2回 給与と手続き/第3回 退職・帰国するとき
外国人を雇ったあとの給与計算は、基本は日本人と同じです。ただし、「居住者か非居住者か」「母国に家族がいるか」「母国と日本の間に協定があるか」で、扱いが変わる箇所があります。この記事では、その違いが出る箇所を整理します。
※この記事は2026年11月時点の公表資料に基づいています。税・社会保険の個別の判断は、所轄の税務署・年金事務所・市区町村、または税理士・社会保険労務士にご確認ください。
1. 大原則:労働法も社会保険も、国籍を問わない
厚生労働省のリーフレットは、こう明記しています。
労働関係法令および社会保険関係法令は国籍にかかわらず適用されることから、事業主はこれらを遵守すること。
具体的には、次のような事項が示されています。
- 最低賃金額以上の賃金を支払い、基本給や割増賃金などを全額支払うこと
- 労使協定に基づき食費・居住費などを賃金から控除する場合は、控除額は実費を勘案し、不当な額とならないようにすること
- 安全衛生教育は、母国語等を用いる、視聴覚教材を用いる等、外国人労働者が内容を理解できる方法で行うこと
- 被保険者に該当する外国人労働者について、労働保険・社会保険の適用手続きをとること
「外国人だから」という理由で、労働条件を変えることはできません。
2. 雇用保険
加入要件は日本人と同じ
次の2つをいずれも満たす労働者は、原則として被保険者になります。雇用形態や本人の加入希望の有無にかかわらず、要件に該当すれば加入が必要です。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上
- 31日以上の雇用見込みがある
外国人の場合の手続き上の違い
- 「雇用保険被保険者資格取得届」の外国人用の欄に、国籍・地域、在留資格、在留期間、在留カード番号などを記入して提出すると、外国人雇用状況の届出を兼ねます(期限は雇い入れた日の翌月10日まで。特別永住者などは届出の対象外)。届出の全体は第1回で説明しています
- 離職時は、資格喪失届を被保険者でなくなった日の翌日から10日以内に提出します
今後の変更
令和6年の雇用保険法等の改正により、2028年(令和10年)10月1日から、加入要件が週の所定労働時間20時間以上から10時間以上に変わります。短時間で働く外国人労働者も、対象に入ってくる可能性があります。
3. 健康保険・厚生年金
適用事業所であれば、国籍にかかわらず、要件を満たす従業員は加入します。手続きは日本人と同じです。
社会保障協定
外国人の場合、日本人にはない論点がひとつあります。母国と日本の間に社会保障協定があるかどうかです。協定の目的は2つです。
- 二重加入の防止——日本と相手国の両方で社会保障制度に加入することを防ぐ
- 年金加入期間の通算——両国の年金加入期間を合算する
日本年金機構によると、2025年12月1日のオーストリアとの協定発効により、協定が発効している国は次の24か国になりました。
ドイツ、英国、韓国、アメリカ、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア、オーストリア
ただし、英国・韓国・中国・イタリアとの協定は「保険料の二重負担の防止」のみで、加入期間の通算はありません。
従業員の母国がこの一覧にあるかどうかで、将来の年金の扱いが変わります。帰国時の脱退一時金との関係は第3回で説明します。該当する場合は、年金事務所に確認してください。
4. 住民税
課税の仕組み
- 1月1日時点で日本に住所があり、一定額以上の給料などを得ている人は、住所地の市区町村に住民税を納める必要があります
- 1月2日以降に出国した場合でも、この扱いは変わりません
特別徴収
総務省のページは、こう明記しています。
外国人を雇用する場合でも、日本人の従業員と同様に特別徴収を行っていただく必要があります。
所得税の源泉徴収義務がある給与支払者は、原則として毎月の給与から住民税を差し引き、従業員の住所地の市区町村に納入します。手続きは日本人と変わりません。税額は市区町村が決めて通知するため、事業主が計算する必要はありません。退職・出国時の扱いは第3回で説明します。
5. 所得税の源泉徴収:まず「居住者か非居住者か」
ここが、外国人の給与でいちばん大きな分かれ目です。
判定の基本
- 居住者——日本国内に住所がある個人、または現在まで引き続いて1年以上居所がある個人
- 非居住者——居住者以外の個人
非居住者の場合
- 給与の支給額に一律20.42%を乗じて所得税等を計算します
- 原則として源泉徴収で課税関係が完結するため、確定申告は不要です
- 年末調整の対象にはなりません
居住者の場合
- 日本人と同じ扱いです
- 毎年最初に給与の支払を受ける日の前日までに、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出してもらいます。提出がない間の毎月の源泉徴収は、申告書を出した人より高い税額の区分になります。年末調整が行われる時までに提出すれば、年末調整は受けられます
- その年最後の給与を支払う際に、年末調整を行います
実務上の注意
入国したばかりの人は、住所があるか、1年以上の居所があるかの判定が必要になります。雇用契約の期間や生活の実態によって判断が分かれるため、迷う場合は税務署や税理士にご確認ください。
6. 租税条約による免除
母国と日本の間に租税条約があれば、所得税等が免除されることがあります。
- 免除を受けるには、「租税条約に関する届出書」を雇用主経由で税務署に提出します
- 届出を出さずに源泉徴収された場合は、「租税条約に関する届出書」と「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書(様式11)」を雇用主経由で提出して、還付を受けられる場合があります
- 短期滞在者の場合、滞在日数の合計が183日以下であるなど、租税条約上の要件を満たせば免税となることがあります
要件は租税条約によって異なります。該当しそうな場合は、個別に確認が必要です。
7. 母国に家族がいる場合:国外居住親族の扶養控除
外国人従業員が「母国の親や子を扶養している」として扶養控除を申告するケースは少なくありません。ここには厳格な要件と書類があります。
対象となる親族の年齢
扶養控除の対象となる国外居住親族は、次のいずれかに限られます。
- 16歳以上30歳未満
- 70歳以上
- 30歳以上70歳未満で、留学により国内に住所・居所を有しなくなった人、障害者、またはその年に生活費・教育費として38万円以上の送金を受けている人
30歳以上70歳未満で、この3つのいずれにも当たらない親族は、扶養控除の対象になりません。
必要な書類
| 書類 | 内容 |
|---|---|
| 親族関係書類 | 戸籍の附票の写しなど国・自治体が発行した書類と旅券の写し、または外国政府等が発行した、氏名・生年月日・住所などがわかる書類。旅券の写しを除き、原本が必要 |
| 留学ビザ等書類 | 留学の在留資格に相当する外国のビザや、在留カードに相当する書類の写し |
| 送金関係書類 | 金融機関、クレジットカード会社、電子決済手段等取引業者の書類などで、その年に各親族へ生活費・教育費を支払ったことがわかるもの。写しで可 |
| 38万円送金書類 | 送金関係書類のうち、各親族へのその年の支払の合計が38万円以上であることがわかるもの。写しで可 |
提出のタイミング
- 扶養控除等申告書を出すとき——親族関係書類(30歳以上70歳未満の留学の場合は、留学ビザ等書類も)
- 年末調整のとき——送金関係書類(16歳以上30歳未満・70歳以上・障害者・留学の場合)、38万円送金書類(38万円以上の送金で対象になる場合)
外国語の書類には翻訳文が必要です。翻訳文が添付されていない場合、提出者に翻訳文の提出または提示を求めることとされています。
書類がそろわなければ、扶養控除は適用できません。本人に早めに伝えて、母国から書類を取り寄せる時間を確保することが、実務上いちばん大事です。
会計士として、こんなお手伝いをしています
給与計算そのものは日本人と変わりませんが、確認が必要な箇所と、書類をそろえる箇所が増えます。
- 給与計算の体制づくり——居住者・非居住者の確認、社会保障協定の確認、扶養控除の書類集めを、毎年回る仕組みにします
- 人件費の総額把握——社会保険料・住民税・源泉徴収を含めて、会社の負担と本人の手取りの全体像を整理します
- 本人への説明資料——手取りがなぜこの金額になるのかを、本人が理解できる形にまとめます
- 専門家との連携——労務の手続きは提携する社会保険労務士と連携して進めます。個別の税務の判断は、税務署や税理士にご確認いただく形になります
手取りを説明できる会社は、信頼されます。外国人従業員に長く働いてもらうための土台を、数字の面から整えます。
まとめ
- 労働法令・社会保険法令は国籍にかかわらず適用。最低賃金・全額払い、労使協定に基づく控除は実費相当、は日本人と同じ
- 雇用保険は週20時間以上・31日以上の見込みで加入。2028年10月から週10時間以上に広がる
- 健康保険・厚生年金は国籍を問わず加入。社会保障協定は24か国と発効し、うち英国・韓国・中国・イタリアは加入期間の通算なし
- 住民税は日本人と同様に特別徴収。税額は市区町村が通知する
- 所得税は居住者か非居住者かで扱いが変わる。非居住者は一律20.42%で、年末調整の対象外
- 母国の家族の扶養控除は、年齢と書類の要件が厳格。30歳以上70歳未満は、留学・障害者・38万円以上の送金のいずれかに当たらなければ対象外
出典
いずれも公的機関の資料です(2026年11月3日にリンク先を確認)。