経理AIシリーズ:第1回 導入の順番/第2回 情報のルール/第3回 確認ルール

経理にAIを入れるなら、今の業務の流れはそのままに、負担の大きい作業からひとつずつ入れていくのが近道です。ソフトの全面切り替えや全自動化から始めると、現場の負担が増え、定着しにくいからです。この記事では、入れ方と入れる順番を、経理の現場の目線で整理します。

AIを入れたのに、楽にならない

「AIを使えば経理が楽になる」と聞いて、新しいツールを契約した。ところが数か月たっても、月末月初の忙しさは変わらない。Excelでの加工も、転記も、照合も残っている。こうしたことは、珍しくありません。

原因はAIの性能より、入れ方にあることが多いと考えています。AIを入れることが目的になり、今の業務のどこに、どうつなげるかが決まらないまま始まってしまうのです。

業務ごと変える導入が、つまずきやすい理由

AI導入というと、会計ソフトを入れ替える、業務の流れを一から作り直す、最初から全部を自動化する、といった大きな話になりがちです。うまくいけば効果は大きいのですが、人手の限られる会社では負担が重くなりやすいやり方です。

  • 覚え直しの負担が大きい——画面も手順も変わるため、担当者は日々の処理をこなしながら、新しいやり方を覚えなければなりません。
  • 移行期間は仕事が二重になる——新しい仕組みが安定するまで、古いやり方でも処理を続けることになります。一番忙しいのは、導入した直後です。
  • 定着しない——使いにくい、前のほうが早い、と感じた時点で、現場は元のやり方に戻ります。契約だけが残る、ということも起きます。

経理は毎月止められない業務です。止められない業務を丸ごと入れ替えるのは、それだけで大きな負担になります。

今の流れに入れ込む導入の利点

そこで勧めたいのが、今の会計ソフトと業務の流れはそのままに、その途中にAIや自動化を差し込むやり方です。

業務ごと変える今の流れに入れ込む
覚えること画面も手順も変わる変わるのは一部の作業だけ
効果が見えるまで全体が安定してから手作業がひとつ減った時点から
うまくいかなかったとき全体を巻き戻すその作業だけ元に戻す

「楽になった」という実感が早く出ると、次の改善にも前向きになれます。小さく入れて、うまくいったら広げる。地味に見えますが、結果的に近道になりやすいやり方です。

入れる順番は「今あるもの」から

入れ込む手段にも順番があります。新しいものを作るのは、最後の手段です。

  1. 今のソフトの設定で足りるか——会計ソフトや販売管理ソフトには、使われていない機能が残っていることがあります。設定を変えるだけで、データの取込や自動での仕訳ができる場合もあります。
  2. 市販のものを足す——設定で足りなければ、すでにある製品やサービスを組み合わせます。多くの会社で使われている分、困ったときの情報も見つけやすくなります。
  3. 足りないときだけ個別に作る——それでも埋まらない部分だけ、自社向けに仕組みを作ります。作ったものは保守が必要になるので、範囲は最小限にします。

先に作り始めると、標準機能で済むことにまでお金と時間をかけてしまいます。まず今あるものを確かめる。それだけで、遠回りの多くは避けられます。

どの作業から入れるか

最初に選ぶのは、手作業が多く、判断が少ない作業です。

作業よくある状態
転記販売管理から出したデータをExcelで加工し、会計ソフトに入力し直している
照合販売管理・会計・入金明細を、毎月手作業で突き合わせている
資料集め請求書や証憑がそろっているかを、1件ずつ確認している
月次資料の準備会計ソフトから出した数字を、所定の様式に貼り直している

これらはルールが決めやすく、AIや自動化に任せても結果を確かめやすい作業です。反対に、会計処理をどうするか、支払ってよいかといった判断を伴う作業は、最初の対象には向きません。判断は人が行い、その前後の準備を仕組みに任せる。この線引きが、うまくいく導入の土台になります。

効果は「時間」で測る

導入したら、効果を測ります。測るのは、作業にかかる時間です。

このとき、処理そのものの時間だけでなく、確認の時間と修正の時間まで含めて見ることが大切です。AIが一瞬で処理しても、その結果を確かめるのに時間がかかったり、間違いを直す手間が増えたりしては意味がありません。操作・確認・修正をあわせて、導入の前と後で比べます。確かめ方については第3回の確認ルールで詳しく扱います。

時間で測っておけば、次にどの作業へ広げるかも判断しやすくなります。

まとめ:小さく入れて、段階的に広げる

経理AIは、業務を変えるために入れるものではありません。今の業務を楽にするために入れるものです。

  • 今の流れはそのままに、負担の大きい作業から入れ込む
  • 手段は「設定 → 市販のもの → 個別に作る」の順で選ぶ
  • 判断は人、その前後の作業を仕組みに任せる
  • 効果は確認・修正まで含めた時間で測る
この記事は特定の制度や統計に基づくものではなく、経理業務へのAI導入の進め方についての筆者の見解です。唯一の正解があるわけではなく、どこから入れるかは会社の業務やお使いのソフトによって変わります。
当事務所でも、この考え方で 経理AI導入の支援 を行っています。進め方・役割分担・料金はそちらのページにまとめています。何から手をつけるか決まっていない段階のご相談も、お問い合わせ からどうぞ。