経理AIシリーズ:第1回 導入の順番/第2回 情報のルール/第3回 確認ルール

経理にAIを使うとき、まず考えたいのが情報の扱いです。経理には、会社の中でも特に外に出してはいけない情報が集まっています。とはいえ、怖がって何も使わないのももったいない。使う前に「何を入れてよいか」「どのサービスを使うか」を決めておけば、安心して活用できます。

経理が扱う情報は、特に慎重さが要る

経理の手元には、次のような情報が日常的に集まります。

  • 取引先の情報——社名、取引条件、取引金額
  • 給与の情報——従業員一人ひとりの給与や控除
  • 口座の情報——自社や取引先の口座、振込先
  • 個人の情報——従業員の住所やマイナンバー、個人の取引先の情報

どれも、漏れれば取引先や従業員に迷惑がかかり、会社の信用にも関わる情報です。便利だからといって、思いつくままにAIへ貼り付けてよいものではありません。

個人情報保護委員会も、事業者が個人情報を含む内容を生成AIに入力する場合は、利用目的の範囲内かを確認すること、入力した個人データが応答以外の目的(機械学習など)に使われないことを十分に確認することを求めています(末尾の出典)。

主なリスク

経理でAIを使うときに気をつけたいリスクは、大きく4つです。

リスク起きること
入力した情報の扱いサービスや設定によっては、入力した内容が学習に使われたり、一定期間保存されたりする
アカウントの共有誰が何を入力したか分からなくなる。退職した人がそのまま使えてしまうこともある
出力の持ち出しAIが作った一覧や資料にも元の情報が含まれる。個人のパソコンや私用のツールに保存されると、管理の目が届かなくなる
誤った出力をそのまま使う結果を確かめずに会計処理や支払いに使うと、情報漏えいとは別の形で損害が出る

最後の項目は、情報漏えいとは性質が違いますが、セキュリティの一部として考えておきます。確かめ方は第3回の確認ルールで扱います。

入れてよい情報、入れてはいけない情報

いちばん効くのは、「AIに入れてよい情報」と「入れてはいけない情報」を先に線引きしておくことです。たとえば次のような分け方が考えられます。

区分例
入れてよい個人や取引先が特定できないように加工した集計値、一般的な会計処理の質問、社内の手順書の文章
条件つきで入れてよい取引先名を含む明細(会社が契約し、学習に使われない設定にしたサービスに限る)
入れてはいけない個人の給与明細、マイナンバー、口座番号、パスワード

どこに線を引くかは、会社が使うサービスや業務によって変わります。大事なのは、担当者が迷ったときに見られる形で決めておくことです。

サービスを選ぶときに見る4つの点

AIのサービスを選ぶときは、機能や価格だけでなく、次の点も確かめておきます。

見る点確かめること
学習入力した内容が学習に使われない設定にできるか
保存入力した内容が、どこに、どれくらいの期間保存されるか
権限使う人ごとにアカウントを分け、退職や異動のときに止められるか
記録誰が、いつ、何をしたかを後から確かめられるか

個人向けの無料版と会社向けの契約とでは、このあたりの扱いが違うことがあります。利用規約やプライバシーポリシーで確かめたうえで、業務では会社として契約したものを使うのが基本です。

社内ルールの最小セット

立派な規程を作る必要はありません。まずは次の4つが決まっていれば、最低限の土台になります。

  1. 使うサービスを決める——業務で使ってよいAIを指定し、それ以外は使わない
  2. 入力してはいけない情報を決める——上の線引きを、一覧にして共有する
  3. 確認する人を決める——AIの結果を、誰が確かめてから使うか
  4. 記録を残す——どの業務に、どのサービスを、どんな設定で使っているか

ルールは、作ったあとに使われなければ意味がありません。短く、分かりやすく、迷ったときにすぐ見られる場所に置いておきます。

まとめ:セキュリティも「入れ込む設計」の一部

AIのセキュリティは、入れたあとに考えることではありません。どの業務に、どのサービスを、どの情報で使うか。それを決めること自体が、導入の設計の一部です。

  • 経理の情報は、入れてよいもの・いけないものを先に線引きする
  • サービスは、学習・保存・権限・記録の4点で選ぶ
  • 社内ルールは最小限から始め、使いながら育てる
個人情報の扱いについての記述は、末尾の出典(個人情報保護委員会の公表資料)に基づいています。一方、情報の線引きや社内ルールの例は筆者の見解であり、唯一の正解があるわけではありません。個別の法的な判断は、専門家にご確認ください。

出典

2026年11月5日にリンク先を確認。

当事務所の 経理AI導入の支援 では、使うサービスや扱う情報の範囲も、導入の設計に含めて決めています。AIを使いたいが情報の扱いが不安、という段階のご相談も お問い合わせ からどうぞ。