日本ではいま、年間460万トンを超える食べ物が、食べられるまま捨てられています。その一方で、カロリーで数えると食料の6割以上を海外に頼っています。捨てながら、足りない。この矛盾に技術で挑むのが、フードテックです。
フードテックとは
農林水産省とフードテック官民協議会がまとめた「フードテック推進ビジョン」に、定義が書かれています。
フードテックは、生産から加工、流通、消費等へとつながる食分野の新しい技術及びその技術を活用したビジネスモデルのことである。
対象は広く、プラントベースフード(植物由来の食品)、昆虫食、細胞性食品(培養肉)、AIやロボットによる調理・製造、データを使った流通の効率化、個人に合わせた栄養提案などが含まれます。
「未来の食べ物をつくる話」に見えますが、本質は違います。いまある食のしくみが立ち行かなくなりつつあり、それをどう組み替えるかという話です。
なぜ今、必要なのか
捨てている量。令和6年度の食品ロスは約461万トン(家庭系 約224万トン、事業系 約237万トン)でした。前年度の約464万トンから3万トン減っています。平成27年度の646万トンからは着実に減っていますが、それでもなお膨大です。
足りていない量。令和6年度の食料自給率は、カロリーベースで38%(前年度並み)。生産額で見れば64%が国産ですが、熱量で数えると6割以上を輸入に頼っている計算になります。捨てながら、輸入している構造です。
作る人の減少。国のビジョンは、こう指摘しています。
国内では、人口減・高齢化の進展に伴う人材確保難のなか、原材料価格高騰等も影響し、食品産業の生産活動への支障が顕在化している
国も動いています。2020年10月にフードテック官民協議会が設立され、2023年2月にフードテック推進ビジョンが策定されました。協議会には細胞農業、Plant Based Food普及推進、アップサイクルフード、鮮度保持技術、発酵菌食品など13の作業部会が置かれています(令和8年6月時点)。
食の事業が「ユニコーン」になりにくい理由
- 口に入るものだから、時間がかかる——安全性の確認、許認可、表示のルール。新しい食品ほど、整備を待つ時間が要る
- 味と価格の壁がある——理念が正しくても、おいしくなければ買われません。既存の商品より高ければ、続けて買ってもらえません
- 設備が重い——工場、製造ライン、冷蔵・冷凍。ソフトウェアと違い、1個つくるたびに材料費がかかります
- 賞味期限がある——作りすぎれば捨てることになり、作らなければ棚が空く。在庫が利益を直接削ります
- 習慣は簡単に変わらない——食の好みは保守的です。良いものだから明日から切り替える、とはなりません
どれも経営の甘さではなく、食という産業がもともと持っている性質です。「5年で一気に大きくして売却する」という前提の資金とは、噛み合いません。
だから、ゼブラ企業なのか
急には大きくならない。けれど、社会には確実に必要とされている。この2つが重なるのがゼブラ企業の領域です。
- 作り手を置き換えるのではなく、一緒に稼ぐ——生産者や加工場の仕事を奪うのではなく、価値を上げて分け合う設計にする
- 地域とセットで広がる——原料も、加工場も、食べる人も、その土地にいます。地域の事業者と組むことが、そのまま事業になる
- 捨てられていたものを、価値に変える——規格外の作物、加工の副産物。もともとあるものを使うため、無理な拡大を必要としません
川上から川下まで、誰かと組まなければ成立しない産業。それが食です。
農業から食へ、食から文化へ
ビジョンの定義が「生産から加工、流通、消費等へとつながる」と書いているとおり、フードテックはひとつながりの流れの真ん中にあります。
この3つは別々の分野ではなく、同じ流れの違う場所です。農業だけを効率化しても、加工と流通が詰まれば売れません。おいしい加工品を作っても、原料の畑が続かなければ止まります。そして日本の食が世界で価値を持つのは、技術だけでなく、そこに積み重なった文化があるからです。
どこか一点だけを支えても、事業は続きません。だからこの3つを、当事務所はひとつの領域として見ています。
続けるためのお金の話
- 在庫と廃棄が、そのまま利益を削る——どれだけ作るかの判断が決算に直結します。ここを勘でやっている限り、利益は安定しません
- 設備投資が重く、回収に時間がかかる——買うのか、借りるのか、既存の工場に委託するのか。最初の判断が、その後の数年を決めます
- 原材料価格が動く——上がったコストを価格に反映できるかどうか。そのためには、原価を正確に把握していることが前提になります
- 認証や検査、表示のコスト——売る前に必要な支出が、意外な額になります
「いい商品なのに続かなかった」という話は、食の世界に少なくありません。その多くは商品の問題ではなく、原価と在庫の設計ができていなかったという問題です。
まとめ
- フードテックとは、食分野の新しい技術と、それを活用したビジネスモデル
- 食品ロス約461万トン、カロリーベース自給率38%、人手不足という現実が必要性を押し上げている
- 食は構造的に急成長しにくく、だからこそゼブラ企業の考え方が合う分野のひとつ
- アグリ・フード・カルチャーはひとつながりで、どこか一点だけでは続かない
- 続けるためには、原価・在庫・設備投資の設計が欠かせない
会計士として、こんなお手伝いをしています
食の事業でつまずく原因は、味でも情熱でもなく、原価と在庫にあることがほとんどです。
- 原価計算の設計——商品ごと、工程ごとに、どこでいくらかかっているかを見えるようにします
- 在庫と廃棄ロスの管理——どれだけ作るかの判断基準を、数字で持てるようにします
- 価格の見直し——原材料の変動を、どう価格に反映するかを一緒に考えます
- 設備投資の判断——自社で持つか、委託するか。回収までの年数を試算します
- 資金繰りの設計——仕入れが先、入金が後という食のサイクルに合わせて組み立てます
- 補助金の活用と、その後の設計——交付が終わったあとも回る形を、申請の段階から描きます
おいしさを、続く事業に変える。そこに会計士が関わる意味があると考えています。
出典
いずれも一次資料です(2026年9月2日にリンク先と本文を確認)。
- フードテック推進ビジョン(令和5年2月21日・PDF)|フードテック官民協議会・農林水産省
- フードテック官民協議会について|農林水産省
- 我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和6年度)の公表について(2026年6月30日)|環境省
- 令和6年度食料自給率を公表します(令和7年10月10日)|農林水産省