BtoB、BtoC。取引の相手によって、ビジネスはこう呼び分けられてきました。では、社会そのものを顧客とする事業は、何と呼べばいいのか。

BtoS(Business to Society)という言葉があります。以前から使われている表現ですが、中身が整理されているとは言えません。事業者が使える形に整理してみます。

BtoSとは、社会を顧客とするビジネス

  • BtoB——顧客は企業
  • BtoC——顧客は消費者
  • BtoS——顧客は社会

ここでいう「顧客が社会」とは、社会が困っていることを解決することが、そのまま事業になっている状態を指します。実際にお金を払う相手は、個人かもしれないし、企業かもしれない。国や自治体かもしれません。支払者の属性は問いません。

決め手は、その事業が解いている課題が、誰か一人のものではなく、社会のものかどうかです。

ソーシャルビジネスとの違いは、意図か構造か

経済産業省のソーシャルビジネス研究会は、ソーシャルビジネスを「社会的課題を解決するために、ビジネスの手法を用いて取り組むもの」と整理し、要件として社会性・事業性・革新性の3つを挙げています。このうち社会性は、課題解決を事業のミッションとすることとされています。

つまりソーシャルビジネスは、意図で判定する言葉です。そのつもりでやっているかどうかを問います。対してBtoSは、構造で判定する言葉です。誰からお金をもらい、誰が恩恵を受けているか。本人がどう考えているかは関係ありません。

この差は、実際の場面で効いてきます。地方の建設会社、路線バスの会社、町の商店。こうした会社に「御社はソーシャルビジネスですね」と言うと、たいてい否定されます。「うちはそんな立派なものじゃない」と。でも実際には、道路を守り、人を運び、買い物の場を維持している。お金を払った人だけが助かっているわけではありません。構造としては、BtoSそのものです。

もうひとつ、ソーシャルビジネスの要件には革新性が含まれます。新しい商品や仕組みを開発することが求められる。BtoSはそこを問いません。何十年も同じやり方で地域を支えてきた会社を、外す理由がないからです。

売った相手だけが、助かるわけではない

  • アグリテック——技術を買うのは農家です。でも、農地が守られることで助かるのは、その地域と、そこで採れたものを食べる私たち全員です
  • フードテック——食品ロスを減らす仕組みにお金を払うのは食品会社です。でも、捨てられる食料が減って助かるのは社会全体です
  • カルチャーテック——職人の技術を記録して残す事業に発注するのは組合や自治体です。でも、本当に恩恵を受けるのは、まだ生まれていない次の世代です

顧客の顔は、それぞれまったく違います。それでも構造は同じです。だから一語で括る意味があります。

そして、その「ほかの人たち」からは、お金をもらえません。事業が生んでいる価値のうち、代金として受け取れるのは一部だけ。残りは、お金にならないまま社会に渡っています。

BtoSの事業は、利益率が上がりにくい。経営が下手なのではなく、構造がそうなっている。

社会課題に取り組む事業者が「がんばっているのに苦しい」と感じるとき、その正体はたいていこれです。

補助金は、恵んでもらうものではない

この構造がわかると、資金の見方が変わります。補助金や助成金の申請に、後ろめたさを感じる経営者は少なくありません。でも、お金にならないまま社会に渡している価値があるなら、話は逆です。

補助金や出資は、その分を別のルートで受け取る仕組みだと考えることができます。「足りない分を援助してもらう」のではなく、「渡した価値を、別の形で受け取る」。同じ行為でも、意味がまったく違います。この捉え方は、行政や金融機関に説明するときにも効きます。何をどれだけ渡しているのかを示せれば、支援を求める理由が変わるからです。

渡した分を、どう示すのか

問題は、それがどれだけあるのかを、誰も知らないことです。何人の暮らしが変わったのか。何が維持できたのか。それによって、誰の負担が減ったのか。これを測り、記録し、報告する。それが社会的インパクトの測定です。

BtoSという言葉は、なぜインパクトを測る必要があるのかを、一言で説明してくれます。理念のためでも、流行のためでもありません。渡している分を見えるようにしなければ、事業が続かないからです。

すでにある言葉との関係

BtoSは、当事務所が作った言葉ではありません。位置づけを整理しておきます。

  • 海外の先例——独シーメンスは「Business to Society」を、自社が社会に与えている影響を測って示すための枠組みとして使っています
  • 日本の先例——日立製作所は2013年の取材記事で、BtoB・BtoCの先にある新しい市場として「Business to Society」を挙げています。日本経済新聞にも「BtoSビジネス」という表現で紹介された企業があります
  • BtoG(Business to Government)との関係——官公庁や自治体を顧客とする取引を指す言葉です。BtoSはBtoGを含みつつ、もっと広い。顧客が自治体でも、企業でも、個人でも、社会の課題を解いていればBtoSです
  • 考え方の土台——経済学でいう外部経済に近いものです。取引の当事者の外にまで便益が及ぶ現象を指します

ただし、定義が定まっているとは言えず、使われ方はばらばらです。BtoSは新しい発明ではなく、すでにある現象に、事業者が使える名前を与えたものだと考えています。

どんな会社が当てはまるのか

  • 地域の困りごとを、事業として引き受けている会社
  • 「儲からないから誰もやらない」と言われてきた領域にいる会社
  • 社会性と収益性の、どちらも手放さずにやっている会社

こうした会社を指す呼び名は、すでにあります。ゼブラ企業です。BtoSは、その会社が「何をしているのか」を説明する言葉だと考えてください。

会計士として、こんなお手伝いをしています

BtoSの事業には、財務諸表に載らない価値があります。載らないからといって、無いわけではありません。

  • 受け取れている分と、渡している分の切り分け——事業の全体像を整理します
  • 社会的インパクトの数値化——渡している分を、行政や金融機関に伝わる形にします
  • 収支計画と資金繰り——構造上の利益率の低さを前提に、続けられる計画をつくります
  • 資金調達の設計——融資・出資・補助金を、事業の時間軸に合わせて組み合わせます

見えない価値を、見える数字にする。それが会計士の役割だと考えています。

まとめ

  • BtoSとは、社会を顧客とするビジネス。支払者が個人か企業か行政かは問わない
  • ソーシャルビジネスが意図で判定するのに対し、BtoSは構造で判定する
  • 特徴は、お金を払った人だけが恩恵を受けるわけではないこと
  • 生んだ価値の一部は、お金にならないまま社会に渡っている。だから利益率が上がりにくい
  • それは経営の失敗ではなく、構造。補助金や出資は、渡した分を別の形で受け取る仕組みと捉え直せる
  • そのためには、渡している分を数字で示せることが前提になる
この記事のうち、制度や他社の用例にあたる部分は末尾の出典に基づいています。一方、BtoSをどう定義し、どう使うかは筆者の整理であり、確立された定義があるわけではありません。事業の性質によって答えは変わります。

出典

2026年9月7日にリンク先を確認しています。

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