社会課題に取り組む会社の資金調達には、決まった型がありません。急成長を前提としたスタートアップの教科書も、安定した中小企業向けの融資の話も、そのままでは当てはまらない。自分の事業に合う組み合わせを、自分で設計する必要があります。

3つの選択肢は、性格がまったく違う

返すのか渡すもの入るまでの時間
借入返す(利息つき)なし(経営権は保てる)比較的早い
株式発行返さない経営権の一部交渉に時間がかかる
補助金返さないなし(ただし使途の制約)後払い。時間がかかる

「返さなくていいから補助金がいい」「経営権を渡したくないから借入」。どちらも一面しか見ていません。選ぶ基準は好みではなく、事業の性質です。

判断の軸は、2つ

  • 軸1——投資してから収益が立つまで、どれくらいかかるか
  • 軸2——経営権を、どこまで手放せるか

収益が早く立ち、経営権を保ちたいなら借入が中心。収益まで時間がかかり、大きな先行投資が要るなら株式発行を検討。どちらの場合も、使える補助金があれば積極的に検討する。おおよそ、この整理になります。

借入が向く会社

サービス提供が中心ですぐ売上が立つ、大きな設備投資が要らない、経営権を手放したくない、事業の時間軸を自分たちで決められる状態を保ちたい。こうした場合です。

創業期なら、まず日本政策金融公庫

新規開業・スタートアップ支援資金は、新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方が対象です。

  • 融資限度額 7,200万円
  • 設備資金20年以内、運転資金10年以内
  • いずれも据置期間5年以内

据置期間とは、元金の返済を待ってもらえる期間のことです。収益が立つまで時間のかかる事業にとって、ここが効きます。最長5年の猶予を前提に設計できるかどうかで、組み立てが変わります。

なお利率について、「中小企業の会計に関する基本要領」等を適用し、自ら事業計画書を策定したうえで認定経営革新等支援機関(税理士、公認会計士、中小企業診断士など)の指導・助言を受けている方は特別利率Aの対象とされています。誰と組んで計画を作るかが、条件に影響します。

社会課題解決型なら、専用の制度があります

日本政策金融公庫にはソーシャルビジネス支援資金があります。あまり知られていません。

  • 対象は、NPO法人。またはNPO法人以外で、保育サービス事業・介護サービス事業等を営む方、もしくは「社会的課題の解決を目的とする事業」を営む方
  • 融資限度額 7,200万円。設備資金20年以内、運転資金10年以内、据置期間5年以内
  • 「社会的課題の解決を目的とする事業」を営む方は特別利率Aの対象(過疎地域や創業7年以内など、条件により特別利率B)
  • この限度額は各種融資制度とは別枠です

ただし「社会的課題の解決を目的とする事業」に当たるかは、公庫が定める要件を満たす必要があります。該当しそうなら、支店に確認してください。

地域で事業をするなら、地域金融機関

地方銀行や信用金庫は、地域とともに事業を続ける会社と利害が一致します。数字だけでなく、地域における意味を理解してもらいやすい。自治体の制度融資(自治体・金融機関・信用保証協会の三者による仕組み)も、創業期の選択肢になります。窓口は自治体にあることが多いので、まずは担当課へ。

2026年5月から、新しい選択肢が加わりました

企業価値担保権という制度が、2026年5月25日に始まりました。事業性融資の推進等に関する法律(令和6年法律第52号)によるものです。

法律は、担保の対象をこう定めています。

会社の総財産(将来において会社の財産に属するものを含む)は、その会社に対する特定被担保債権及び不特定被担保債権を担保するため、一体として、企業価値担保権の目的とすることができる。

個々の不動産ではなく、会社の財産を丸ごと、将来の分まで含めて一体で担保にするという考え方です。不動産を持たない事業者や、価値の多くが人と仕組みにある事業にとって、意味の大きい制度です。

制度は信託の仕組みを使い、法律は企業価値担保権に関する信託業務について免許・監督の規定を置いています。始まったばかりなので、実際に扱えるかは金融機関によって異なります。取引先に確認してみてください。

株式発行が向く会社

工場や設備など先に大きな投資が必要、研究開発や許認可に時間がかかり収益まで数年かかる、借入では返済開始の時期に収益が間に合わない。こうした場合です。返さなくていい代わりに、経営権の一部を渡します。ここが本質です。

いちばん大事なのは、相手の時間軸

5年で回収する必要のあるお金を入れれば、5年で結果を出す経営になります。社会課題に取り組む事業は、それより長い時間がかかることが多い。だから金額や条件より先に、出口の時間軸が合う相手かどうかを確認してください。この点はソーシャルビジネスで会社を成長させるにはでも書きました。

インパクト投資という選択肢

金融庁が2024年3月に公表した基本的指針は、インパクト投資を「投資として一定の『投資収益』確保を図りつつ、『社会・環境的効果』の実現を企図する投資」と定義しています。

同じ指針は、対象となる企業として「地域の伝統価値を活かしたビジネスモデルの再展開を図る中堅・中小企業」や、特定の地域やニッチな市場の課題に着目する「地域発の創業企業」を挙げています。地方の小さな会社が想定の外にあるのではありません(詳しくはインパクト投資とは)。

休眠預金からの出資という道もあります

休眠預金等活用制度は、子ども・若者への支援、日常生活等を営む上で困難を有する者への支援、地域社会における課題への支援という3つの分野を対象に、民間の公益活動を支援する仕組みです。

助成が中心でしたが、社会的起業家の資金需要に応えるため、出資による支援も始まりました。JANPIA(指定活用団体)が資金分配団体を選定し、その資金分配団体が、初期のスタートアップなど民間資金が十分でない株式会社に出資する形です。3分野に当てはまる事業なら、検討する価値があります。

補助金は、使えるなら積極的に。ただし

返済不要で、実績にもなります。ただし3つ注意点があります。

  • 後払いが基本——先にお金が出ていくので、そのあいだの資金繰りが要ります。交付が決まっても、つなぎの借入が必要になることがあります
  • 使途に制約がある——使いたいものに使えるとは限りません
  • 続かない——交付が終わった瞬間に止まる事業を、たくさん見ます

代表的なものに、総務省のローカル10,000プロジェクト(地域経済循環創造事業交付金)があります。自治体が金融機関の融資と協調して、民間事業者の初期投資費用(施設整備・改修費、備品費など)を公費で助成する仕組みです。交付額の上限は最大5,500万円。地域資源を活用する事業、地域課題への対応につながる事業、新規性やモデル性のある事業が対象で、窓口は自治体側にあります(詳しくはゼブラ企業が使える支援制度まとめ)。

組み合わせの考え方

実際には、単独ではなく組み合わせます。ここからは、私が実務で考えている進め方です。

  • サービス業で初期投資が小さい場合——公庫の創業融資で立ち上げ、地域金融機関との取引を作り、補助金は設備更新のタイミングで
  • 設備が重く、収益まで時間がかかる場合——補助金で設備の一部をまかない、不足分を長期の借入へ。それでも足りなければ、時間軸の合う出資を検討
  • 地域課題に取り組み、行政と連携する場合——自治体の交付金、地域金融機関の融資、実績を作ってから次の展開へ

制度どうしがつながっている例もあります。ローカル10,000プロジェクトの交付決定を受けた方は、公庫の新規開業・スタートアップ支援資金で特別利率Bの対象とされています。補助金を取ったことが、次の借入の条件を良くするという設計です。

順番を間違えない

  • 事業計画が先、資金調達は後——何年で形になるのかが見えていなければ、合う資金は選べません
  • 補助金は、器を決める前に確認を——創業前でなければ使えない制度、設立後でなければ申請できない制度があります
  • 最初の株主構成は、あとから直せません
この記事のうち、制度の内容と数字は末尾の一次資料に基づいています。一方、どの手段をどう組み合わせるか、どの順番で進めるかの判断は筆者の見解であり、唯一の正解があるわけではありません。事業の性質によって答えは変わります。制度の適用可否は必ず各窓口にご確認ください。

まとめ

  • 選ぶ基準は、収益までの時間と経営権の2つ
  • すぐ収益が立ち経営権を保ちたいなら借入。創業期は日本政策金融公庫、地域なら地域金融機関
  • 社会的課題の解決を目的とする事業には、公庫に専用の融資制度がある。しかも別枠
  • 収益まで時間がかかり先行投資が重いなら株式発行。相手の時間軸を必ず確認する
  • 補助金は使えるなら積極的に。ただし後払いで、それだけでは続かない
  • 2026年5月25日から、会社の総財産を一体で担保にする企業価値担保権が使えるようになった

会計士として、こんなお手伝いをしています

  • 資金調達の全体設計——事業が形になるまでの年数から逆算して、どの手段をどの順番で使うかを組み立てます
  • 収支計画・資金繰り表の作成——金融機関や補助金の審査に耐える形に整えます
  • 金融機関への説明資料——数字と事業の意味を、伝わる形にまとめます
  • 補助金のつなぎ資金の設計——後払いの期間をどう乗り切るかを含めて計画します
  • 株主構成の検討——将来の調達を見据えて、いま誰にどれだけ持たせるかを一緒に考えます
  • 社会的インパクトの数値化——資金の出し手に伝わる非財務の資料を作ります

集められる額ではなく、続けられる形で集めること。そこが会計士の仕事だと考えています。

出典

いずれも一次資料です(2026年9月5日にリンク先と本文を確認)。

「どの順番で集めればいいか」「この計画で通るか」という段階でも構いません。ご相談は お問い合わせ からどうぞ。初回は無料です。