社会課題に取り組んでいると、「もっと大きくしないと社会は変わらない」と言われることがあります。その通りだと思います。事業が大きくなるほど、届く相手は増えます。ただ、成長の意味を取り違えると、大きくなる前に事業そのものが壊れます。
「成長」には2種類ある
- 規模の成長——売上を伸ばす、拠点を増やす、社員を増やす
- 続く力の成長——利益率が上がる、資金繰りが安定する、人が辞めなくなる、一人でも回るようになる
一般的な成長論は、ほぼ前者だけを扱います。社会課題に取り組む事業で先に必要なのは、後者です。続く力がないまま規模を広げると、まっさきに現場が壊れます。
同じやり方では伸ばせない理由
- 効率化しにくい——人が人に向き合う事業は、コピーが効かない
- 単価を上げにくい——困っている人が顧客だと、値上げがそのまま届かなくなる
- 時間がかかる——信頼を得るのにも、人を育てるのにも年単位が必要
- 市場が広く薄い——全国に少しずつ散らばっていて、一気に取れない
これらは経営の未熟さではなく、その事業が持っている性質です。性質に合わない成長を目指すと、無理が事故になります。
では、何を伸ばすのか
- 値付けを見直す——原価を把握しないまま値段を決めると、売れるほど苦しくなります。まず原価を知る。話はそこからです
- 収益の柱を複数持つ——本業の売上、受託、補助金、寄付。どれか一本に頼れば、その一本が切れたときに止まります。比率を決めて、意図的に組み合わせる
- 一社で広げず、面で広げる——同じ課題に取り組む相手は、競合ではなく仲間になり得ます。地域の事業者、自治体、金融機関と組むほうが、一社で全国を取りにいくより広がりやすい領域です
- 成果を示す力をつける——何がどう変わったのかを説明できれば、資金の出し手にも人にも伝わります。示せなければ、良い事業でも選ばれません
速度を決めるのは、経営判断より先に資本
成長の速度は、経営者が決めているようで、入れた資金の条件によって先に枠が決まっています。5年で回収する前提の出資を受ければ、5年で結果を出す経営になる。それが悪いのではなく、事業の性質と合っているかが問題です。
集める前に決めることがあります。この事業は、何年で形になるのか。
年数から逆算して、合う資金を探す。集めてから考えると、順番が逆になります。
この考え方には、名前がついています
急がずに、しかし確実に伸びていく。社会性と収益性のどちらも手放さない。この会社のあり方を、シマウマの白と黒の縞にたとえた呼び方があります。ゼブラ企業です。
日本では特に、その地域版が国の政策として動いています。中小企業庁は「ビジネスの手法で地域課題の解決にポジティブに取り組み、社会的インパクトを生み出しながら、収益を確保する」会社をローカル・ゼブラ企業と位置づけ、その創出・育成を支援する事業を行っています(詳しくはローカル・ゼブラ企業とは)。
会計士として、こんなお手伝いをしています
- 原価の把握と値付け——根拠のある価格を一緒に決めます
- 収益構造の設計——本業・受託・補助金・寄付の比率を決め、一本足から抜けます
- 資金調達の設計——事業が形になるまでの年数から逆算して、合う資金を探します
- 成果の数値化——何がどう変わったのかを、資金の出し手に伝わる形にします
急がせる側ではなく、続く形に整える側にいたいと思っています。
まとめ
- 成長には「規模」と「続く力」があり、先に必要なのは後者
- 社会課題に取り組む事業は、構造的に急成長しにくい。それは弱さではない
- 伸ばすべきは、値付け・収益構造・連携・示す力
- 成長の速度は、入れた資金の条件で先に枠が決まる
出典
いずれも公的機関の資料です(2026年9月2日にリンク先を確認)。
- 地域課題解決事業推進(ローカル・ゼブラ企業)|中小企業庁
- ソーシャルビジネス|経済産業省
- ソーシャルビジネス研究会 報告書(案)(平成20年2月・産業構造審議会地域経済産業分科会 資料2-2・PDF)|経済産業省