「社会にいいことをしています」。それだけでは、お金は集まりません。ところが近年、その効果を測ること自体が資金につながる仕組みが広がってきました。インパクト投資です。
インパクト投資とは
この言葉には、国が示したはっきりした定義があります。金融庁が2024年3月に公表した「基本的指針」です。有識者の検討会が2022年10月から8回にわたって議論し、案の段階で意見を募って43の個人・団体から寄せられた声を反映したうえで、まとめられたものです。誰かが勝手に言い出した流行り言葉ではありません。
その指針に、こう書かれています。
インパクト投資は、投資として一定の「投資収益」確保を図りつつ、「社会・環境的効果」の実現を企図する投資である。
「企図する」は「ねらう」という意味です。かみくだくと、こうなります。
きちんと利益を出す。そのうえで、社会や環境をよくする。この二つを同時にねらうお金の出し方。
寄付や慈善事業と違って、出したお金は戻ってくる前提です。そのうえで社会への効果も求める。両方を同時に求めるところが、ほかの投資と違います。
必要なものは、4つ
同じ指針が、インパクト投資に必要な要素として4つを挙げています。言い方はかたいのですが、中身は難しくありません。
- 意図——何をよくするつもりなのかが、はっきりしている
- 貢献——そのお金を入れたことで、実際に効果が生まれる
- 特定・測定・管理——何を、どうやって測り、どう管理するかが決まっている
- 変革——市場やお客さんの動きを変える、または変化を速める
指針では、それぞれ「実現を『意図』する『社会・環境的効果』が明確であること」「投資の実施により、効果の実現に貢献すること」「効果の『特定・測定・管理』を行うこと」「市場や顧客に変革をもたらし又は加速し得るよう支援すること」と書かれています。
ESG投資と、どう違うのか
名前の似たESG投資とは、金融庁の資料ではっきり分けて説明されています。
- 一般的なESG投資——企業のESGの取組みを総合的に評価し投資比率等を決定、又は特定業種等を投資先から除外
- インパクト投資——投資により実現を図る具体的効果を特定・コミットし、これを実現する技術革新等を進める企業に投資
違いは一つです。「何を、どう変えるか」を先に決めて、約束するかどうか。
ESG投資は、会社全体の取り組みを見て「この会社はよさそうだ」と判断します。インパクト投資は、「この事業で、ここをこう変える」と決めて、その一点にお金を入れます。だからあとで、本当に変わったのかを示す必要が出てきます。
なぜ「測ること」が、お金につながるのか
ここまでで、答えは出ています。指針が挙げた4つの要素のうち、3つ目が「特定・測定・管理」だからです。
つまり測定は、やったほうがいい追加の作業ではありません。それがないと、そもそもインパクト投資として成り立たないという位置づけです。お金を出す側からすれば当然で、「社会をよくします」と言われても、よくなったかどうかを確かめるすべがなければ、約束を守れたのか判断できません。
逆に言えば、測る形ができている会社は、それだけで選ばれやすくなります。同じ事業をしていても、示せる会社と示せない会社では、集まるお金が変わってくるということです。
市場は、広がっている
社会変革推進財団(SIIF)の調査によれば、日本のインパクト投資残高は18兆6,531億円でした(2025年度調査、2026年3月公表)。前年度は17兆3,016億円だったので、前年比108%です。
地域の小さな会社にも、関係がある
大企業やスタートアップの話に聞こえるかもしれません。ところが金融庁の指針は、対象になる企業として、こういう会社をはっきり書いています。
- 「地域の伝統価値を活かしたビジネスモデルの再展開を図る中堅・中小企業」
- 「特定の地域やニッチな市場が抱える課題・ニーズに着目し、緩やかだが持続的な成長を見込む地域発の創業企業」
地方の小さな会社が想定の外にあるのではなく、はじめから想定に入っているということです。急がずに、社会性と収益性の両方を手放さない会社が国の政策で注目されているのも、同じ流れの中にあります(ゼブラ企業とは/ローカル・ゼブラ企業とは)。
受ける側が、いま準備できること
4つのうち3つ目の「特定・測定・管理」が、そのまま準備することになります。
- 何を変えるのかを、言葉にする——誰の、どんな状態を、どう変えるのか
- 測るものを決める——毎日の仕事のなかで無理なく数えられるものにする
- 記録が残る形をつくる——特別な作業をしなくてもデータが貯まるように
- 定期的に報告する——お金を出した側は、入れて終わりではなく、その後を見ています
この準備は、インパクト投資のためだけのものではありません。補助金の申請でも、銀行への説明でも、求められるものは重なります(ゼブラ企業が使える支援制度まとめ)。
まとめ
- インパクト投資とは、利益の確保をねらいながら、社会・環境への効果の実現もねらう投資
- 必要な要素は、意図・貢献・特定/測定/管理・変革の4つ
- ESG投資との違いは、変える中身を具体的に決めて約束するかどうか
- 日本の残高は18兆6,531億円(2025年度調査、前年比108%)
- 国の指針は、地域の中堅・中小企業や地域発の創業企業にも触れている
会計士として、こんなお手伝いをしています
- 何を変えるのかを、測れる形にする——言葉にして、数えられる指標に落とします
- 測定と記録の仕組みづくり——仕事のなかで自然にデータが貯まる流れを設計します
- お金の出し手への報告資料——お金の話と、それ以外の成果を、ひとつの資料にまとめます
- 資金調達の全体設計——融資・出資・補助金のどれを、どの順番で使うかを一緒に考えます
測って、記録して、報告する。会計がずっとやってきた仕事を、お金以外の成果にも広げるだけです。特別なことではありません。
出典
いずれも一次資料です(2026年9月2日にリンク先と本文を確認)。
- 「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」の公表について(令和6年3月29日)|金融庁
- インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針(2024年3月・PDF)|金融庁
- 同 基本的指針の概要(ESG投資との比較を含む・PDF)|金融庁
- 日本のインパクト投資残高、18兆6,531億円に拡大(前年比108%)「日本におけるインパクト投資の現状と課題 2025年度調査」を発行(2026年3月31日)|社会変革推進財団(SIIF)