資本政策に、唯一の正解はありません。同じ手段が、ある会社では最善になり、別の会社では失敗になります。違いを生むのは、その会社がいまどこにいるかです。そこでこの記事は、手段からではなく、状況から整理します。

考え方の前提

「株式を渡すべきか、守るべきか」という問いの立て方は、あまり役に立たないと考えています。株式を渡すことは手段のひとつで、借入も、補助金も、提携も、同じ棚に並んでいます。基準になるのは、いまの状況で、この事業をいちばん遠くまで届けるのはどれかです。

7つの状況から考える

1. 立ち上げ期で、収益が立つまで時間がかかる

まず検討したいのは創業融資です。日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は、据置期間が5年以内に設定されています。元金の返済を待ってもらえる期間があるため、収益が立つまでの時間を確保しやすくなります。社会課題の解決を目的とする事業なら、公庫のソーシャルビジネス支援資金も対象になりえます(ゼブラ企業の資金調達)。

この段階で株式を出すかどうかは、慎重に考えたいところです。事業が形になる前は評価が低くなりやすく、同じ割合を渡しても、入ってくる金額が小さくなるためです。

2. 事業は回っているが、大きな設備投資が必要

借入だけでは足りない、あるいは借入の枠が伸びないときに検討したいのが、日本政策金融公庫の挑戦支援資本強化特別貸付(資本性ローン)です。

  • 融資限度額は7,200万円(別枠)、融資期間は5年1ヵ月以上20年以内
  • 返済は最終回の一括払いで、それまでは利息のみの支払い
  • 利率は業績に連動し、税引後当期純利益が0円以上なら3.25〜3.95%(融資期間により異なる)、0円未満なら0.50%(2026年9月時点)
  • 公庫は「金融機関の資産査定上、自己資本とみなすことができます」としています

株式を動かさずに自己資本を厚くできるため、次の借入を検討しやすくなる可能性があります。利用には対象となる要件があるので、事前の確認が必要です。補助金が使える場合は、補助金・資本性ローン・通常の借入を重ねる組み方も考えられます。

3. 売るものはあるが、届ける力が足りない

販路、製造設備、許認可、専門人材。自前で揃えるには長い年月がかかるものを、すでに持っている相手がいることがあります。このとき資金は主役ではなく、本体は相手に本気で動いてもらうことです。形としては資本業務提携が選択肢になります。

自前で用意する場合の年数と費用を試算し、渡す株式の価値と並べてみると、判断しやすくなります。

4. 広げるスピードそのものに、意味がある

自分たちのペースで広げると時間がかかり、その間、困っている人は困ったまま——社会課題に取り組む会社ならではの状況です。「自分たちのやり方でやりたい」と「早く届けたい」がぶつかるとき、資本を受け入れて加速する判断にも理由があります。独立を守ること自体が目的になっていないか、一度立ち止まる価値はあるでしょう。

一方で、急いで質が落ちるなら本末転倒です。どちらを選ぶかは事業の中身によるため、経営者が決めるしかない部分です。

5. 財務が傷んでいて、借入が伸びない

ここでも資本性ローンが選択肢になります。自己資本とみなされるため財務の見え方が変わり、赤字の期間は利率が0.50%、元本の返済も最終回までありません。立て直しに集中しやすくなります。

増資で立て直す方法もありますが、財務が傷んでいる時期は評価も低くなりやすい時期です。急いで株式を出すと、想定より多くを渡すことになりかねません。

6. 後継者がいない

事業を続けてくれる相手に資本の一部を渡すことが、事業を残すいちばん現実的な方法になる場合があります。地域のインフラのような事業ほど、この判断が必要になりやすいでしょう。株式を持ち続けることと、事業が続くことは、同じではありません。

7. 長く支えてくれる株主がほしい。ただし急かされたくない

  • 中小企業投資育成株式会社は、中小企業投資育成株式会社法(昭和38年法律第101号)に基づく国の政策実施機関です。ファンド期限(3〜5年程度)に応じて保有するベンチャーキャピタルに対し、安定株主として長期保有し、経営干渉や役員派遣を行わない方針を示しています
  • インパクト投資について、金融庁の基本的指針は対象の例に「地域の伝統価値を活かしたビジネスモデルの再展開を図る中堅・中小企業」や「緩やかだが持続的な成長を見込む地域発の創業企業」を挙げています(インパクト投資とは
  • 休眠預金等活用制度にも、社会的起業家などに向けた出資の仕組みがあります

株主を選ぶときの一つの基準は、金額や評価額よりも、何年で結果を求める相手かだと考えています。

どの状況でも共通すること

  • 議決権の節目を把握する——株主総会の決議には、過半数で決まるものと、3分の2以上の賛成が必要なものがあります(会社法)。自分の持分がどの節目を割るのかは、事前に確認しておきたいところです
  • 何のために渡すのかを契約に書く——提携なら、その中身を具体的に。「協力する」だけでは担保になりにくいものです
  • 出口の前提を先に共有する——上場も売却もしないなら、株主の利益は主に配当になります。その前提を共有できる相手かどうかは、確かめておきたい点です
  • 一度に渡さない——必要な分を、必要なときに
  • 整理してから増資する——いまの構成に問題があるなら、増やす前に直す。後になるほど難しくなりがちです

状況以前に、避けたいこと

  • 共同創業者で均等に分ける——意見が割れたとき、何も決まらなくなるおそれがあります
  • 名義だけの株主をつくる——後の増資で足かせになりがちです
  • 口約束で株を約束する——もめる原因になりやすいものです
  • 断れない相手から受け取る——金額の大きさより、断れるかどうかを判断材料にしたいところです

会計士として、こんなお手伝いをしています

  • いまの状況の整理——財務と事業の段階から、使える手段を洗い出します
  • 自前と提携の比較——自社で用意する場合の年数と費用を試算し、並べて比べられるようにします
  • 資本政策表の作成——いまの株主構成と、増資後の姿を一覧にします
  • 資本性ローンの検討——要件に合うか、財務にどう効くかを試算します
  • 株主候補と提携条件の比較——時間軸、出資比率、配当方針、譲渡の制限などを整理します

契約書の作成は弁護士、登記は司法書士の業務です。必要に応じて専門家をご紹介します。決めるのは経営者です。当事務所の役割は、決めるための材料を揃えることだと考えています。

まとめ

  • 資本政策に唯一の正解はなく、合う手段は会社の状況で変わる
  • 立ち上げ期や財務が傷んでいる時期は、株式の評価が低くなりやすい
  • 資本性ローンは、株式を渡さずに自己資本を厚くする選択肢になりうる
  • 届ける力が足りない、広げる速さに意味がある、承継を考える——こうした場面では資本を渡す選択肢が出てくる
  • 条件の設計では、議決権の節目・提携の中身・出口の前提を先に決めておきたい
この記事のうち、制度や数字にあたる部分は末尾の出典に基づいています。一方、どう考えるか・どう進めるかの判断は筆者の見解であり、唯一の正解があるわけではありません。事業の性質によって答えは変わります。

出典

2026年9月11日にリンク先を確認しています。制度の条件や利率は変更されることがあります。

「株式を渡すべきか迷っている」「資本性ローンが使えるか知りたい」という段階でも構いません。ご相談は お問い合わせ からどうぞ。初回は無料です。