毎年8月末、各省庁は翌年度に行いたい施策を、予算の形で財務省に要求します。これが概算要求です。中小企業庁の令和9年度(2027年度)分を読むと、「ローカル・ゼブラ企業」という言葉が、支援の対象としてはっきり書かれていました。何が書かれ、どう読めるのか。資料に沿って整理します。

※概算要求は「要求」の段階です。年末に政府の予算案がまとまり、年明けの国会審議を経て決まります。金額は変わる可能性があります。この記事の金額と引用は、すべて中小企業庁「令和9年度 中小企業・小規模事業者関係 概算要求等ポイント」によります。

1. 資料は6つの柱でできている

資料は冒頭に「基本的な課題認識と対応の方向性」を置き、そのあとに次の6つの柱が続きます。

  1. 賃上げの後押し
  2. 官公需も含めた価格転嫁・取引適正化の更なる徹底
  3. 成長支援・成長投資・生産性向上
  4. M&A・事業承継等の事業再編、早期の経営改善・事業再生
  5. 経営改革のための伴走支援体制の強化等
  6. 小規模事業者の活性化、社会課題解決に向けた地域における取組支援等

冒頭の枠内には、経済産業省全体の概算要求から「賃上げ起点の成長戦略と地域産業クラスター形成」(1兆3,841億円)の項目が抜き出して添えられています。

注目したいのは6つ目の柱です。見出しに「社会課題解決」が入っており、説明には「地域の社会課題解決に向けた取組や災害復旧等の取組を支援」とあります。

社会課題の解決は、福祉や非営利の領域の話として受け取られることの多いテーマです。それが中小企業政策の柱の見出しに置かれている。この並べ方には、注目しておく価値があると筆者は考えています。

2. 「ローカル・ゼブラ企業」が、支援対象として名前で書かれた

冒頭の「基本的な課題認識と対応の方向性」に、次の一文があります。

100億宣言企業や中堅企業から売上高1~10億円の企業、小規模事業者、ローカル・ゼブラ企業に至るまで、変革に挑む企業に対し、積極的かつ幅広い支援を行う

これは支援対象の幅を示した文です。売上高100億円を目指すと宣言した企業、中堅企業、売上高1〜10億円の企業、小規模事業者、そしてローカル・ゼブラ企業。

並びを見ると、前の4つが主に規模で区切られているのに対し、ローカル・ゼブラ企業は事業の性質で呼ばれています。規模とは別の軸で、支援対象のひとつとして名指しされていると読めます。

「ゼブラ企業」という言葉を聞いたことがない経営者は、まだ多いはずです。それでも国の予算資料には、すでに支援対象の名前として載っています。定義や国のこれまでの取り組みは、ローカル・ゼブラ企業とは?で整理しています。

3. 直接の予算は、22億円の調査枠の中にある

ローカル・ゼブラ企業に直接関わる事業は、「中小企業実態調査委託費」という枠の中にあります。

  • 要求額——22億円(令和8年度当初:20億円)

資料では、この枠が柱ごとに中身を変えて何度か登場します。挙がっている調査項目は、次の4つです。

  • 中小企業の構造的賃上げに向けた詳細分析調査(1つ目の柱)
  • ローカル・ゼブラ企業創出・育成のためのエコシステム定着に向けた調査分析(3つ目と6つ目の柱)
  • 創業の良質な「土壌」づくりに向けた調査・分析(3つ目の柱)
  • 地域中小企業人材確保支援等調査・分析(6つ目の柱)

22億円は枠全体の要求額で、すべてがローカル・ゼブラ企業に使われるわけではありません。項目ごとの金額は、資料には書かれていません。

ローカル・ゼブラ企業の項目の説明は、次の一文です。

ローカル・ゼブラ企業の創出・育成に向け、今年度作成するファイナンスに関するガイダンスの活用状況やコミュニティの取組を社会実装するための要素について調査・分析

この一文には、見落とせない情報が2つ入っています。

ひとつ目:「ファイナンスに関するガイダンス」が今年度つくられる

ローカル・ゼブラ企業の資金調達について、国が指針をまとめている、ということです。来年度はその「活用状況」を調べるとされているので、今年度中につくられ、使われ始めることを前提にした書き方です。公表の時期や中身は、この資料には書かれていません。

ふたつ目:「社会実装」という言葉

国のローカル・ゼブラ企業に関する取り組みは、令和6年度から実証事業として進められてきました。令和9年度の要求では、コミュニティの取組を「社会実装するための要素」を調べるとあります。試す段階から、広げる段階に進もうとしていると読めます。

なお、この項目は資料の中で「3. 成長支援・成長投資・生産性向上」と「6. 小規模事業者の活性化、社会課題解決に向けた地域における取組支援等」の2か所に載っています。成長の文脈と、地域の社会課題解決の文脈の両方に置かれている、ということです。

4. 周辺の予算:当初予算と比べると大きく増えている

ローカル・ゼブラ企業に直接関わるのは調査の事業です。一方、地域で事業を営む会社が実際に使う可能性があるのは、周辺の予算のほうです。

事業令和9年度
要求
令和8年度
当初
令和7年度
補正
小規模事業対策推進等事業175億円62億円97億円
地方公共団体による小規模事業者支援推進事業73億円14億円53億円
中小企業活性化・事業承継総合支援事業280億円139億円74億円
後継者支援ネットワーク事業3.5億円3.5億円—

令和8年度当初と比べると、地方公共団体による小規模事業者支援推進事業は5倍超、中小企業活性化・事業承継総合支援事業は約2倍の要求です。

ただし、読むときに注意が一つあります。これらの事業は、前年度に補正予算でも手当てされていました。令和8年度当初と令和7年度補正を足して比べると、増え方は約1.1〜1.3倍にとどまります。

補正予算は年度の途中で組まれるため、使えるかどうか、いつ使えるかが事前に読みにくいものです。資料の冒頭には「必要な予算を確保し、従来よりも力強い支援を安定的かつ切れ目なく行う用意がある姿勢を示していく」とあります。急に支援が膨らむというより、補正に頼っていた部分を当初予算で確保しようとしていると読むほうが実態に近い、と筆者は考えています。

5. ここから何を読み取るか

ここからは、資料の記述をもとにした筆者の見立てです。

① 「ローカル・ゼブラ企業」は、自社の説明に使える言葉になった

国の予算資料に支援対象として書かれたことで、自治体や金融機関がこの言葉を使う場面は増えていくと考えられます。自社の事業を説明するとき、「地域の課題をビジネスで解決している」と言うより、「ローカル・ゼブラ企業として」と言ったほうが、相手の資料と言葉がそろう。説明の手間が減る場面があるはずです。

② ファイナンスのガイダンスは、出たら早めに読む

今年度つくられるという資金調達の指針には、金融機関も目を通すことになるでしょう。ローカル・ゼブラ企業への融資や出資の場面で、共通の物差しとして使われる可能性があります。自社の事業計画を、ガイダンスの枠組みで説明できるようにしておく。それが、金融機関との対話を進めやすくすることにつながると考えています。

③ 「社会実装」に進むなら、コミュニティとつながっておく

資料には「コミュニティの取組を社会実装するための要素」とあります。国が広げようとしているのは、1社ごとの支援というより、地域の仕組みです。実証事業に参加している地域やコミュニティとつながっておくと、情報も人も届きやすくなります。

④ 窓口として、自治体の存在が大きくなる

地方公共団体による小規模事業者支援推進事業の説明には、「地方公共団体による複数の支援機関が連携した伴走支援モデルの創出を支援し、全国展開を行う」とあります。補正を含めれば金額の増え幅は大きくないものの、自治体が中心になって支援機関をつなぐ形を全国に広げる方針は示されています。市町村の担当課と、いまのうちに関係をつくっておく価値はあります。

⑤ 事業承継と地域課題の解決は、同じ場所にある

中小企業活性化・事業承継総合支援事業は、後継者のいない中小企業の事業承継・事業引継ぎも対象にしています。地域には、新しく始めるより引き継ぐほうが早い事業が少なくありません。地域の課題に取り組みたい人にとって、引き継ぎは有力な入口のひとつになり得ます。引き継ぐ前に株主構成や事業ごとの採算を整理しておく話は、資本政策の記事でも触れています。

6. 概算要求の読み方

最後に、資料の読み方をひとつ。

金額より、言葉に注目することをおすすめします。金額は年末の予算案で変わりますが、一度資料に載った言葉は、翌年以降も使われ続けることが多いからです。

今回の資料でいえば「ローカル・ゼブラ企業」「社会課題解決」「社会実装」「ファイナンスに関するガイダンス」。これらは来年度の政策文書にも引き続き出てくる可能性が高い、と筆者は見ています。

いま、この言葉で自社を説明できるようにしておく。来年度の支援を使うための、いちばん手軽な準備だと考えています。いま使える制度はゼブラ企業が使える支援制度まとめに、資金の組み合わせ方はゼブラ企業の資金調達にまとめています。

会計士として、こんなお手伝いをしています

政策の言葉と自社の事業を結びつける作業は、数字の裏づけがあってはじめて説得力を持ちます。

  • 自社の位置づけの整理——国の資料の枠組みに沿って、自社の事業を説明できる形にします
  • ガイダンスに沿った事業計画——資金調達の指針が公表されたら、その枠組みに合わせて計画書を整えます
  • 自治体との対話の準備——地域にどんな価値を生んでいるかを、数字で示せる資料にします
  • 承継を含めた事業の設計——引き継ぐ側・引き渡す側の両方で、財務面の整理を支援します
  • 制度の動きの確認——年末の予算案から年度明けの公募まで、変更点を追ってお伝えします

制度は毎年変わります。それでも、数字で自社を説明できる会社は、どの制度にも合わせやすくなります。その土台をつくるのが会計士の仕事だと、当事務所は考えています。

まとめ

  • 中小企業庁の令和9年度概算要求は6つの柱で構成され、6つ目の柱の見出しに「社会課題解決」が入っている
  • 冒頭の課題認識で、「ローカル・ゼブラ企業」が支援対象のひとつとして名前で書かれた
  • 直接の事業は調査分析で、22億円の調査枠の一部。内容は、今年度つくるファイナンスのガイダンスの活用状況と、社会実装に向けた要素の分析
  • 周辺では、自治体経由の小規模事業者支援と事業承継の総合支援が、当初予算比で大きく増える要求。ただし前年度の補正を含めると増え方は約1.1〜1.3倍で、補正から当初予算へ移す動きとも読める
  • 読み取れるのは「実証」から「実装」への移行。この言葉で自社を説明できるようにしておきたい
この記事のうち、予算額や資料の記述にあたる部分は末尾の出典に基づいています。一方、それをどう読むか・どう動くかの判断は筆者の見解であり、唯一の正解があるわけではありません。概算要求の金額は、年末の予算案や国会審議で変わる可能性があります。

出典

いずれも中小企業庁の一次資料です(2026年10月27日にリンク先を確認)。

ガイダンスが出る前に、自社の事業を数字で説明できるようにしておきたい。そんな段階からでも構いません。代表の経歴は プロフィール をご覧ください。ご相談は お問い合わせ からどうぞ。初回は無料です。