値上げでも、経費削減でもありません。ソーシャルビジネスの利益は、誰に売るかを決めた時点で、大きく方向づけられます。そして多くの会社は、売り先を一つしか見ていません。視点を広げると、同じ事業のまま、届く人数も利益も変わることがあります。

この記事では、社会課題に取り組む会社が「誰に売るか」をどう設計するかを整理します。一つの型を勧める話ではなく、自分の事業に合う型を一度きちんと並べて考えるための材料です。

まず思いつくのは、「助けたい人に売る」こと

子どもを助けたい。そう考えた人が、次に何をするか。親に売ろうとします。

自然な発想ですし、正しい。SNSやネット販売で直接届けられる今、一人ずつ説明して回る必要もありません。共感してくれる親に、まっすぐ届けられる時代です。

ただ、この形だけで考えていると、見えにくい制約があります。

  • 助けたい人ほど、お金に余裕がないことがある——困っていること自体が、課題の一部だからです。値段には天井ができます
  • 個人の財布から出るお金は、1件あたりが小さい——数を集めないと成り立ちません
  • 届く範囲が、こちらの発信力に左右される——伸びるかどうかが、事業の中身より広報の巧拙で決まってしまいます

これは間違いではありません。選択肢が一つしか見えていない状態です。

受益者と顧客は、同じでなくていい

ここが出発点です。

  • 受益者=助けたい相手
  • 顧客=お金を払う相手

この2つは、一致させなくてもいい。親に売る形を捨てる必要はありません。並べて、もう一つ持てばいいのです。

受益者は変えない。子どもを助けたいなら、助ける相手は子どものままでいい。増やすのは、請求書を出せる相手です。

助ける相手と、お金を払う相手は、分けて設計していい。

なお、社会そのものを顧客と捉える考え方については、BtoSとは?社会(society)が顧客であるビジネスの考え方で整理しています。この記事は、その手前にある「請求書を誰に出すか」の話です。

「束」を探す——受益者が集まっている場所に売る

もう一つの売り先として有力なのが、受益者が集まっている場所です。子どもの例で言えば、こうなります。

  • 学校、幼稚園、保育園——子どもが毎日、束で集まっている
  • 自治体——子育て支援を政策として掲げ、予算を持っている
  • 子ども向けの商品を扱う企業——子どもに届けたい理由が、もともとある
  • 企業の福利厚生——従業員の子育てを支援したい会社がある

一人ずつ届けるルートに加えて、すでに子どもが束になっているところにも行く。それだけで、事業の広がり方が変わります。

束の探し方は、3つの問いで足ります。

  • 受益者は、どこに集まっているか
  • 誰が、受益者をまとめて抱えているか
  • その組織は、受益者のことで何に困っているか

3つ目が特に大事です。学校には学校の困りごとがあり、自治体には自治体の困りごとがある。その困りごとを解く形で提案できれば、相手は自分の予算から払います。

束に売ると、何が変わるか

個人に売るルートと比べて、性格が違います。

  • 1件あたりの金額が上がる——個人の財布ではなく、組織の予算から出るからです
  • 一度に届く人数が増える——1回の商談で、まとまった人数に届きます
  • 継続しやすい——年度予算に入れば、翌年も続きます
  • 信用が積み上がる——1校に入れば、次の学校に話が通りやすくなります

そして何より、助ける人数と利益が、同じ方向に増えます

個人向けだけの構造では、届く人数が発信力の限界で止まります。束のルートを足すと、助ける数が増えるほど売上も増える線がもう一本引かれる。両方を持つことで、事業が安定します。

束に売るときの、唯一の注意点

落とし穴があります。お金を払う相手と助けたい相手が違うということは、両者の求めるものがずれることがあるということです。

  • 学校が買う理由と、子どもが助かる理由は、同じではありません
  • 相手の都合に合わせすぎると、受益者に届かない商品ができあがります

だから、こう分けてください。

  • 提案は、顧客の言葉で——相手の困りごとを解く話として語る
  • 設計は、受益者のために——中身は、助けたい人のために作る

この両立ができているかどうかが、ソーシャルビジネスの質そのものです。

「束に売る」も、ひとつの型にすぎない——ほかの収益モデル

ここまで書いてきたのは、あくまで例のひとつです。うまくいく会社もあれば、そもそも束が存在しない事業もあります。利益が出る構造は、ほかにもあります。

副産物を売る

本業の過程で、勝手に生まれているものがあります。現場に貯まったデータ、身についたノウハウ、加工で出る端材。これを二つ目の商品にする。新しく作る必要がないので、原価がほとんどかかりません。研修、視察の受け入れ、講演、アップサイクル商品などが該当します。現場を長く続けてきた会社に向きます。

課題そのものを、原価にする

誰も使っていない空き家、閉まった学校、余っている設備、活かされていない人手。社会課題の裏側には、たいてい「余っているもの」があります。それを市場価格より安く使えるなら、原価が下がる。解決したい課題が、そのままコスト優位になるという構造です。地域資源を扱う事業に向きます。

型を渡して、自分は大きくならない

全国に広げたいが、資金も人も足りない。そのとき、自社で展開せずに、やり方を他の地域に渡すという手があります。研修、ライセンス、マニュアルの提供。課題は解かれ、対価は入り、自社の負担は増えません。再現性のある手法を持つ事業に向きます。

単発を、続く関係に変える

売り切りの商品を、保守・会員・定期購入といった形に変える。1件あたりの利益は小さくても、積み上がれば安定します。営業コストも、一度きりの顧客より下がります。継続して関わる必要がある事業に向きます。

どれが正解かは、事業によって違います。個人に直接届けるのが最も強い事業もあります。束が見つかる事業もあれば、副産物のほうが大きい事業もある。同じ業種でも、地域が違えば答えが変わります。

大事なのは、自分の事業にどの型が合うかを、一度きちんと並べて考えることです。多くの会社は、最初に思いついた売り先のまま走り続けています。

利益の出ない取引は、ビジネスではない

型は違っても、共通するルールがひとつだけあります。ここは、はっきり書きます。

売っても利益が出ない、あるいはマイナスになる関係は、取引として成立していません。
  • それは事業ではなく、奉仕です
  • 奉仕が悪いのではありません。ただ、奉仕をするための器は別にあります。社会福祉法人やNPO法人という選択肢があり、寄付や助成という資金の入り方があります(法人格ごとの違いはゼブラ企業・B Corp・ソーシャルビジネス・NPOの違いで整理しています)
  • 株式会社でやると決めたのなら、1件売るごとに利益が残る構造でなければなりません

大きな利益率は必要ありません。ゼブラ企業に求められているのは、急成長でも高い利益率でもない。でも、ゼロやマイナスではいけない。

理由は単純です。赤字の取引を続けるほど、助けられる人は減ります。事業が続かないからです。目の前の1人を無理して助けた結果、来年の100人に届かなくなる。それは、優しさではありません。

「儲けるのは悪い気がする」という感覚は、多くの経営者が持っています。でも、利益は目的ではなく、続けるための条件です。成長を社会貢献の手段と捉える考え方は、ソーシャルビジネスで会社を成長させるにはにも書きました。

最低限、確認すること

難しい分析は要りません。まず、これだけ。

  • 1件売って、いくら残るか
  • 残らないなら、原因は3つのどれかです。値段が低い/コストが高い/構造が合っていない
  • そして多くの場合、いちばん伸びしろがあるのは3つ目です

値上げには限界があります。コスト削減にも限界があります。でも、構造を見直すと、数字の桁が変わることがあります。

会計士として、こんなお手伝いをしています

この記事に書いたことは、すべて例です。御社に当てはまるとは限りません。実際の現場では、事業の中身、地域、顧客との関係、これまでの経緯——そのすべてを見ないと、どの型が効くかはわかりません。同じ業種でも、答えは変わります。だからこそ、一緒に考える意味があります。

  • いまの構造の把握——誰に売り、誰が助かり、1件でいくら残っているかを整理します
  • 型の見極め——直接届けるのか、束に売るのか、副産物を売るのか、原価で勝つのか。事業に合う形を一緒に探します
  • 採算の可視化——事業別・商品別に、どこで稼ぎどこで失っているかを分けて見えるようにします
  • 値付けの見直し——原価に基づいた、根拠のある価格を決めます
  • 収益モデルの設計——助ける人数と売上が、同じ方向に伸びる形を組み立てます

優しさと採算は、対立しません。続く構造を作ることが、いちばん多くの人を助けます。

まとめ

  • ソーシャルビジネスの利益は、誰に売るかで大きく方向づけられる
  • 多くの会社は、助けたい人に直接売る形から始める。それは正しい。ただ、売り先はそれ一つではない
  • 受益者と顧客は、分けて設計していい。直接届けるルートに、もう一本を足せる
  • 有力な一本は、受益者が束になっている場所に売ること。助ける人数と売上が、同じ方向に増える
  • ただし正解はひとつではない。副産物を売る、課題を原価に変える、型を渡す、続く関係に変える。事業ごとに、合う型は違う
  • 共通しているのはひとつだけ。利益の出ない取引は、ビジネスとして成立していない
この記事は考え方の整理であり、統計や制度の引用はありません。どう考えるか・どう進めるかの判断は筆者の見解であり、唯一の正解があるわけではありません。事業の性質や地域によって答えは変わります。
御社の事業では、どの型が効くのか。数字を見ながら、一緒に探させてください。ご相談は お問い合わせ からどうぞ。初回は無料です。